不動産業界のキーワード!? 「不動産テック」をひもとく(前編)

不動産業界のキーワード!? 「不動産テック」をひもとく(前編)のイメージ画像

  • シェアする
  • 共有する
  • ブックマーク
  • LINEで送る

ここ最近、雑誌や書籍、インターネットメディアなどで目にする機会が増えてきた「不動産テック(Real Estate Tech)」という言葉。不動産に携わる全ての人々、または不動産と関わるあらゆる接点で大きな変革をもたらす可能性を秘めたこのキーワードをひもとくため、ソニー不動産の情報技術を統括している角田智弘と、サービス企画・マーケティングを統括している青木和大に話を聞きました。

【担当者プロフィール】

tsunoda.png

ソニー不動産 情報技術担当 人事担当
執行役員 角田智弘(つのだともひろ)

aoki.png

ソニー不動産 企画・マーケティング室
室長 青木和大(あおきかずひろ)

情報の見える化と事業の効率化

――早速ですが、「不動産テック」とはどういったものですか?

青木: 「不動産テック」というワードは、一般的な解釈に従えば、不動産とテクノロジーの掛け合わせによってもたらされた利便性の高いサービスといったところでしょうか。ただしこの「不動産テック」の正確な定義はまだ定まっていないのが実情です。不動産テックが指す領域が非常に広範で、かつテクノロジーが不動産に介在する領域がものすごいスピードで拡大しているのがその理由です。例えば、インターネットの普及を背景に、今では一般的になった不動産情報が充実している不動産ポータルサイトも不動産テックのひとつと言えますし、現在我々がトライしている様々な先進的なサービスも不動産テックに含まれると考えています。インターネットが登場する以前、新聞の折込チラシや町の不動産屋さんの店先に貼り出されていた物件情報を頼りに部屋を探していました。この劇的な変化だけをとっても、テクノロジーがいかに不動産業の在り方に変化をもたらしたのかを理解できると思います。

角田: 異なる業種では、「フィンテック(金融×テクノロジー)」という言葉も、「不動産テック」に先行する形で盛り上がっています。もう10年以上前からあるオンラインバンキングや、今ならモバイル決済もフィンテックのひとつです。我々の暮らしに近いところで起きているこうした金融業界でのさまざまな変革同様、テクノロジーが介在することで不動産業界に大きな変革をもたらすものが「不動産テック」と言えるでしょう。「Web」の進化や変遷を語る際に、しばしばWeb1.0やWeb2.0、Web3.0といった言葉で説明がなされますが、「不動産テック」という言葉の使われ方は、これに非常によく似ていると感じています。先ほどの青木さんの話にも絡みますが、不動産ポータルサイトがRET1.0とすれば、現在進められている様々な先進的なサービスがRET2.0といったところでしょうか。

vol1-02b.png

――不動産テックがもたらす変化とは?

青木: ひとつは、お客さまに提供できる情報の質です。物件情報がインターネットで閲覧できることもそうですが、不動産取引の中で不動産仲介会社がどういう関わり方をしているか、売り出した物件の市場での反応は現時点でどうなっているのか、など、今までなかなか消費者には見えづらかった情報が、今後加速度的に提供されるようになっていくと考えています。このような情報の透明度の高まりは、非常に消費者にとって有益なことです。

角田: 加えて、業界内部、つまり不動産会社サイドにも大きな変化があると思います。不動産業界では資料のやりとりを今でもまだ電話やFAXで行っていたり、マンパワーに頼ったりとまだまだITの活用が進んでいないところがあるので、そこにテクノロジーが入ることによって効率化がもたらされるはずです。情報の見える化という顧客価値の創造と事業の効率化、その両軸で不動産テックは今後進んでいくと考えています。

vol1-03.png

不動産テックが盛り上がりを見せる背景は?

――にわかに不動産テックが注目されだした理由は?

角田: 我々ソニー不動産が始動した2014年ころ、「Real Estate Tech(リアルエステートテック)」や「不動産テック」という言葉をインターネットで検索しても、検索結果にまだ日本語のページは出てきませんでした。そこから、我々ソニー不動産を含め、いくつかの企業が不動産業界にITを持ち込むケースが増え、こういった大きな動きに対して、または一定の成果に対するラベリングとして「不動産テック」という言葉が用いられるようになりました。「業界に新しい波が来ている」と期待させるようなキーワードとして広がった側面もあるのではないでしょうか。注目を集めると、おのずと人材や投資も集まり、新しいイノベーションが起こる。今まさに、その大きなうねりの中にいるという印象です。

青木: わたしは、消費者の潜在的なニーズの高まりにも一因があると考えています。わたし自身、この会社に入るよりもずっと以前のことですが、購入を検討していたマンションの契約直前に契約が白紙に戻った苦い経験があり、その時には途方に暮れました(笑)。当時は、売買契約において不動産仲介会社にどのような役割を期待してよいものか、そもそも不動産取引とはどのように行われるのかについての知識も浅く、契約を進めるなかで共有される情報も乏しかったため、不動産売買が自分のあずかり知らないところで進んでいるような実感がありました。今振り返ってみると、不動産会社と売主と買主それぞれの立場に等しく情報が行き渡るような仕組みがあれば、きちんと成約に至ったのではないかと思います。

vol1-04.png

――ニーズが顕在化していない理由はどこにありますか?

角田: それは多くの人にとって家を買ったり売ったりするタイミングは、一生に1回か2回程度しか訪れず、公平公正に取引がされているかどうかを充分に検証できる機会が得られないことも理由でしょう。また、青木さんの経験談からもうかがえるように、不動産を扱う企業と一般の消費者とでは保有している情報が非対称であることもその理由のひとつです。

青木: ソニー不動産が不動産業界に参入した経緯も、そこにあります。顕在化していないニーズがあって、そこにテクノロジーを持ち込むことで、解決ができそうだと考えたからです。我々が掲げているポリシーは、「透明性・合理性・公平性」。不動産テックによって、もっと効率的で、透明性の高い取引ができるようになること。これは、社会全体にとって大きなプラスになると思っています。

テクノロジーが、ビジネスモデルを変える

――では、具体的に不動産テックがもたらす消費者のメリットは?

青木: 先ほど角田さんがフィンテックを引き合いに出しましたが、テクノロジー化による業務効率向上の恩恵で金融業界では手数料が下がったり、入出金ができる時間帯が拡大されましたが、それと同じようなことが不動産業界にも起こると思います。

角田: わたしたちがヤフー株式会社と協同で提供している「おうちダイレクト」というサービスでは、売主ご本人さまが部屋の写真を撮って、インターネット上で売り出しをしていただきます。お客さま自らが不動産を売り出すため、売却仲介手数料は0円です。ITの力でいくつかのフローを削ぎ落とし合理化されたからこそ、こういう新しいチャレンジができるようになりました。

vol1-05.png

――それは消費者にとって嬉しいことですね。

角田: はい。不動産売買のこれまでのルールと違うアプローチで我々は不動産業に踏み込んでいるので、ソニー不動産が口にする「不動産テック」という言葉には、単に不動産業界にテクノロジーを持ち込むということだけではなく、ビジネスモデルの転換というニュアンスも含んでいます。

青木: ITによってお客様の課題を解決できるという思いで、ソニー不動産は新しいプレイヤーとして不動産業界に参入しました。

vol1-06.png

――では、現在直面している課題は?

青木: ひとつは、法律の問題が考えられます。たとえば、不動産の賃貸契約や売買契約は、法律上、紙の書面が必要な類型として位置付けられ、原則的に書面でのやりとりが必要です。これは、不動産の契約において消費者保護の観点でそうなっているものですが、結果的にITが介在しづらい立て付けになっています。

角田: ITの力で情報の非対称性もなくなり、また消費者保護もできるような仕組みをつくることができれば、ルールのほうが変わっていくこともあるのではないでしょうか。

青木: あとは、消費者が不動産をインターネットやITを用いて取引するということに対し、漠然とした不安を感じていることは、クリアすべき課題です。実際に「おうちダイレクト」を利用された方にお話を伺っても、最初は不安だったというご意見は多いです。不動産取引は動くお金が大きいので、日用品をネットショッピングすること等に比べると、心理的なハードルが高くなるのは当然です。この課題をクリアするためには、不動産テックという文脈で語られる様々なサービスが世の中に浸透していく過程で、サービスを提供する我々への信頼を地道に築いていく必要があると考えています。

(後編に続く)

おうちダイレクトはこちら


取材・文

iwamoto.png

岩本俊介(いわもと しゅんすけ)
文案家。八割計画所属。

編集

株式会社カラーコーディネーション

この記事をシェアする
  • シェアする
  • 共有する
  • ブックマーク
  • LINEで送る